Column

「エンプロイヤ―ブランディング(Employer Branding)」―新しいパラダイム下であなたの「組織」をマーケティングする手法とは?―第2回: 失敗するパターンから学ぶ、エンプロイヤ―ブランディング

 人材紹介や人材派遣など、様々な人材サービスを提供しているRandstad社の記事、「Employer brand is still critical to winning great talent」(注1)には、デジタル・トランスフォーメーションが進む中、雇用主の評判は人材確保の観点から極めて重要であり、エンプロイヤーブランドに注力しなくなった企業は優秀な人材を確保する競争で後れを取るであろう、と述べられています。

 エンプロイヤーブランディングとは、企業の働く場所としての魅力を、求職者と既存の従業員に伝える活動です。前回のコラムでは、エンプロイヤーブランディングとは何か、そしてハイネケン社でのブランド構築の取り組みの事例を紹介いたしました。

 今回は、企業がエンプロイヤーブランディングやエンプロイーバリュープロポジション(EVP:従業員に対する提供価値)に取り組む際に失敗するパターンについて紹介し、皆さんの組織で取り組む際のチェックリストとしてご活用いただくと同時に、エンプロイヤーブランディングの本質についても掘り下げていければと思います。


失敗するエンプロイヤ―ブランディングのパターン

 Randstad「6 mistakes to avoid when developing your employer branding strategy 」(注2)の記事からの紹介です。この記事によると、エンプロイヤーブランディングへの取り組みを行う際には、次の6つの間違いを避けるべきであると述べられています。

1. クイック・フィクサー(The “Quick Fixer”)
 「企業は、新しく華々しいブランドポジションを得ることが、お粗末な企業文化を修正してくれると簡単に考えがちである」(注2)、また「ブランドには、感情的な体験に裏打ちされた強力なメッセージが必要」(注2)、とのことです。

 表面的なその場しのぎの対策(quick-fix)に飛びつくのではなく、前回のコラムで紹介したハイネケン社の例のように、企業文化を根本から問い直すような深く地道な作業が必要だと言えそうです。

2. フライ・バイ・ブランダー(The “Fly-By Brander”)
 「真新しい属性の人材への訴求を狙って、企業ロゴの変更を行うようなことだけでは、事業目標の達成はできない」(注2)、そして「ブランディング戦略は、とりわけよく熟考されたものでなければならない。ブランドのマーケティング目標と、それを達成するための具体的・現実的・計測可能な方法によってデザインされた、簡潔明瞭な計画を立てるようにしなければならない」(注2)と述べられています。

 「Fly-By Brander」とは、航空機の操縦や飛行制御を電気的に行う「Fly-By-Wire」や「Fly-By-Light」を言い換えた表現であると思われます。ここでの「Brander」は直訳の「焼き印を押す人」や上記の単なる企業ロゴの変更の話から考えて、「内容について緻密に計画することなく、表面的なシンボルだけを生成する人」と解釈できます。
 したがってこの「Fly-By Brander」とは、表面的な活動のみに終始してしまう人にブランディングの手綱を握らせないように、という教訓なのでしょう。

3. ハーフブランド (The “Half-Brand”)
 「時間であれ、お金であれ、エネルギーであれ、ブランディング戦略に対して適切かつ十分な量をつぎ込むことは簡単なことではない」(注2)と述べられています。そのため、そのような「不十分な取り組みでは半分の成果しかもたらさない」(注2)ことになると戒めています。

 また、Randstad「employer brand is still critical to winning great talent」(注1)では、パンデミック時において多くの企業が、失業率が上昇する時期には不要だという理由でエンプロイヤ―ブランドへの投資を止めてしまっていることが課題である、と述べられています。このようなことは、まさに“ハーフブランド”に直結する行為と言えるのではないでしょうか。

4. スパムブランダー(The “Spam Brander”)
 ブランディング戦略を、自社名を市場に浸透させようとすることと捉えてしまう人がいますが、これは質よりも量のアプローチなので持続的な結果はほとんど生み出さず、その結果、発信されたメッセージが嘘くさく、信憑性がないものと捉えられるリスクが生じる、と述べられています。(注2)

 確かに知名度の向上は、ブランディングの第一歩としては重要かもしれません。しかし、その活動にとどまっている限り、名前以上のものが相手に伝わることはないということなのでしょう。

5. タイムトラベラー (The “Time-Traveler”)
 エンプロイヤーブランディングに関わる活動が、将来の事業戦略への貢献をも期待する場合は、現在のみにフォーカスするのではなく、将来のマーケット状況を踏まえた自社のポジショニングを検討すべき、とのことです。(注2)

 ブランド戦略は、現状に対する課題解決型のアプローチと、未来から逆算した演繹的アプローチの両方を統合する活動なので、両方のバランスが重要と言えるでしょう。

6. フォロワー(The “Follower”)
 自社が求めている人材のターゲット層について注視することは、客観的に見て理にかなっている行為に思われますが、それよりもむしろ、自社と似たブランドを持つ競合他社を注視すべきである、と述べられています。なぜなら自社と競合他社との間で、求職者への訴求要素の違いを分析し、独自のアイデンティティを構築して他社に先んじて動くことが重要だからとのことです。(注2)

 以上のことから、エンプロイヤーブランディングでの失敗を避けるために重要なポイントは、まずこれが表面的になり過ぎないこと、発信量を過信しないこと、かつ短期間で安易に結果が出るものでもないと理解することだと考えられます。

 また、自社についての洞察を基に腰を据えて行うこと、そして未来の状況にもフィットするように考察し、さらに競合と差別化した上で先んじて動くことが必要です。

失敗するEVP(Employee Value Proposition)のパターン

 EVPは、エンプロイヤーブランドの要素のうちの一つと考えられています。(注1)
 HR Exchange Networkの「Best Practices for Developing Your Employer Brand」(注3)では、EVPは「ある人があなたの会社で働きたくなるような具体的な理由を参照するためのもの」と述べられています。

 McKinsey & Companyの「Attracting and retaining the right talent」(注4)によると、次の3つの理由から、人材獲得競争に勝つために有益なEVPを有する企業は少ない、とのことです。

特徴がない(Not distinctive)
 総花的なEVPを作ろうとすることで、どこの会社も似たり寄ったりなEVPが出来上がってしまうため、他の側面を気にしつつもある一つの側面で際立つものを作った方が良い、とのことです。(注4)

ターゲットを絞っていない(Not targeted)
 全社的・総合的なEVPも良いですが、最も重要なことは、会社の最重要な分野での人材確保において「勝てるEVP」を持つことだそうです。(注4)

現実的でない(Unreal)
 見栄えが良く作られたEVPでは、長期的に見て人材獲得競争に「負けるEVP」となるとこのとのです。なぜなら会社の実態がEVPに謳っている通りのものでなければ、優秀な人材はそれにすぐ気づき、幻滅してしまうからだそうです。(注4)

 このようにEVPに関しても、エンプロイヤーブランディングと共通する「負けパターン」をうかがうことができます。


 エンプロイヤーブランディングやEVPの取り組みに失敗しないためには、これらを流行りものと捉えたり、簡単にすぐできてしまう表面的なものであると考えたり、実態とかけ離れた華々しいものの羅列であったり、会社側の思い込みに基づくものでよい、というような様々な思い違いをしないことが求められます。

 じっくりと腰を据え、時間や工数、予算をかけて「自社とは何者であるか」を誠実に自問するプロセスを経て、他社との比較から自社独自の強みを見つけてそこにフォーカスし、「今」の状況への適応に終始せず「将来」の状況を自ら作り出すことも見据えたブランディングを目指す必要がありそうです。

 したがってエンプロイヤーブランディングとは、自社の企業文化を棚卸して根本から問い直し、そこから未来の姿を描き出す活動と言えそうです。


注1:Randstad「Employer brand is still critical to winning great talent」(2022年7月19日参照)

注2: Randstad「6 mistakes to avoid when developing your employer branding strategy 」(2022年7月19日参照)

注3:HR Exchange Network「Best Practices for Developing Your Employer Brand」(2022年7月19日参照)

注4:McKinsey & Company「Attracting and retaining the right talent」(2022年7月19日参照)