Column

カルチャー・ブリッジングとは?グローバル企業や組織のリーダーに必要とされる理由

寄稿者: Yih-Teen Lee教授
Managing People in Organizations, IESE Business School

職場において、文化の違いは、独創的なビジネスソリューションを生み出す重要な資源になりえます。異なる視点を探求したり結びつけたりすることで、可能性を広げることができるのです。同時に、文化の違いは、誤解や衝突の原因となり、業績不振やビジネスパートナーとの関係にダメージをもたらすこともあります。この文化の違いをのりこえる上では、企業や組織のリーダーが重要な役割を持ちます。彼らの役割こそが、ダイバーシティから望ましい結果を得られるかどうかを決定づけるともいえます。「カルチャー・ブリッジング」は、企業と組織のリーダーにとって、文化的多様性をうまく舵取りする上で重要な、戦略的コンピテンシーなのです。

「適応」から「架け橋 (ブリッジング)」へ

通常、異文化マネジメントの研究では、文化の違いを識別したり、比較することに重きを置きます。文化的背景が異なる人と一緒に働く際の最も一般的な解決方法は、相手の文化的規範を理解し、自分が相手に合わせるべきという文化への「適応」というものです。 しかしこの方法は、以下の点において、望ましくもなければ効果的でもないのです。第一に、”誰が誰に合わせるか”という疑問が残り、混乱と緊張が生まれる可能性があります。第二に、組織としての整合性を醸成するためには、それぞれの持つ文化的な価値観を超えて、各人にある一定のふるまいを求める必要がある、とった組織の戦略的ニーズを考慮していない点です。第三に、本来、文化が深く根付いた認知的慣習や行動的慣習から自らを解き放つには、相当な努力が必要であるという事実を無視して、人は、そうしようと思えば適応できるという考えに立脚していることです。
翻って「カルチャー・ブリッジング」とは、メンバー同士のつながりを築くことを目的とした「戦略的」かつ「意図的」なアクションの集合体です。組織のリーダーが、文化背景の異なる人々が、それぞれの文化的行動様式を離れ、組織の戦略的ゴールに向かって協働するよう働きかけができるようになるためのアプローチを提供するものです。

「カルチャー・ブリッジング」は、戦略的な文化醸成のための強力なツール

カルチャー・ブリッジングは、文化背景が異なるメンバー間で、3つのつながり作りに寄与します。一つ目は、カルチャー・ブリッジングによって文化背景の異なるメンバー間で、相互理解が促されることにより「認知的なつながり」が生まれます。例えば、 組織のリーダーは、メンバー同士が学習し生産的対話ができるように働きかけ、グループ内の類似点や相違点の明確な理解ができるように促すのです。

二つ目に、カルチャー・ブリッジングは、メンバー間の信頼と帰属意識を醸成し、「感情的なつながり」づくりにも役立ちます。例えば、社会的な絆が生まれるようなきっかけ作りをすることが、このタイプのカルチャー・ブリッジングの一つの施策です。 三つ目に、カルチャー・ブリッジングは、これまでに述べた「認知的」つながりと「感情的」つながりの効果を活かしながら、協働を目的とした行動規範を設けることによって、「行動的」つながりづくりに寄与します。具体的には、組織のリーダーは、メンバーに期待する行動を明確にし、メンバーが意識的また意図的に協働することで最大限の価値創造ができるように促すことが、施策となります。

カルチャー・ブリッジングは、グローバル企業や組織のリーダーが、国籍が異なる人々や組織文化が異なる人々を束ねるうえで柔軟で強力なツールとなります。また、そうすることで少なくない利点が得られるのです。例えば、二つ以上の文化が同時に存在する多文化チームにおいて、「適応」という手法は、メンバーがどちらがどちらに合わせるべきか分からず、効果的ではない場合があるかもしれません。カルチャー・ブリッジングは、メンバー間の深い相互理解 (認知的つながり) と愛着 (感情的つながり)の醸成を促し、また継続的にメンバー間の協働を目的とした機能的な行動規範(行動的つながり)作りを促します。さらにM&A後の経営統合(PMI)においても、カルチャー・ブリッジングによって、あらゆる当事者が同質性と異質性をより全面的に可視化し、無理に強要されたと感じさせることなく、ともにアイデンティティを形成し積極的に行動様式を一体化させていくことができるでしょう。

各企業はカルチャー・ブリッジング戦略を組織レベルで策定することができますが、結局は各組織のリーダーたちが、その文化的背景の違いにかかわらずプロジェクトやチームなどの各現場に最適化されたブリッジングの方法を編み出す上で、重要な役割を占めます。カルチャー・ブリッジングを適切に導入することで、グローバル企業および組織のリーダーたちは、文化の多様性と繁栄がもたらす利益を享受できるでしょう。