楽天グループでは、カルチャーカフェという取り組みを行っています。
これはランチタイムにオンラインで集まり、昼食をとりながらカジュアルに様々な考え方や経験を共有するイベントで、コロナ禍における社員同士の繋がりをサポートするために始まった取り組みです。
自社の企業文化を理解したり、社員同士の関係を広げたりすることを目的としています。
2021年7月29日のカルチャーカフェでは、楽天ピープル&カルチャー研究所のアドバイザーで、株式会社チームボックス 代表取締役である中竹竜二氏をお迎えし「ウィニングカルチャー」、すなわち「勝ちぐせのある組織」をテーマにお話しいただきました。そのレポートを全2回のシリーズでお送りします。
今回は第1回、「組織文化は人の感情によって作られ、人の行動に影響する」です。
なお、今回のセッションは、2021年2月に上梓した中竹氏の著書、『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』の内容をベースに実施されました。
組織文化の根幹は、「感情」である
ウィニングカルチャーについて考える前に、そもそも、組織文化(culture)とは何なのでしょうか?
組織文化とは、組織の中にある空気感や雰囲気です。
大切にされている価値観、気づかない中で生まれてくるしきたりといったような、目に見えない領域にあるものです。
このような定義を見てもわかるように、組織文化を構築するうえで最も重要なことは「fact-事実」ではなく、主観的な「emotion-感情」の共有です。
例えば、WFH(Work From Home)が続いてチームメンバーのことを分かりあえていないのではないかという問題について、組織文化という観点から考えてみましょう。
このときに重要なのは、分かりあえていないという「事実」そのものよりも、そのことによって自分が不安なのか、寂しいのか、もっと知りたいと思っているのかといったような「感情」です。
こうすることで、業務フロー的に知り合うのではなく、なぜ分かり合いたいのかという裏付けを持つことができます。
組織文化とは、人と人とのつながりの中で生まれてくるものです。どのように組織文化をつくっていくかという悩みを抱える方も多いのではないかと思いますが、この点でもポイントとなるのは「感情の共有」です。
組織文化の醸成に必要なのは、「チームワーク」ではなく「チームビルディング」
組織文化は人の感情から生み出されるものであるため、組織文化を醸成するにはコミュニケーションが取れる時間、感情が共有できる時間を設けることが必要です。
チームで何かをするときに、人はどうしても「チームワーク」やその結果に目が行きがちです。
しかし、組織文化とは「チームワーク」の問題ではなく「チームビルディング」の問題なのです。
「チームワーク」とは機能を指しますが、「チームビルディング」はそのベースとなる部分です。業務に関係のないコミュニケーションのために雑談したり、互いを知るためにワークショップを開催したりすることで、仕事のつながりではなく人のつながりを増やすことが「チームビルディング」です。
しかし、ビジネス組織では土台としての「チームビルディング」よりもその上にある機能としての「チームワーク」の時間、すなわち業務の時間を重視しがちです。 このような傾向の理由は、「チームビルディング」のための時間よりも業務の時間の方が、ビジネスの結果に対してより直接的だからです。
「チームビルディング」を間接的に結果につなげようとすると、労力と時間がかかります。そのため、業務の時間より「チームビルディング」の時間を優先することは非常に勇気が必要な行動となってしまい、ビジネスの分野ではなかなか実践されていないのでしょう。
組織文化はパフォーマンスに直結する
しかし、組織文化とパフォーマンスの相関はかなり深いことが、科学的にも証明されています。
個々の実力の総計以上に結果を出すチームと、個々の実力の総計以下の結果にとどまってしまうチームの違いは、組織文化の違いにあります。
前述したように組織文化とは人と人との相互作用によって生まれるものです。そのため、同じチームの人がどのようなことを考えているかによって、自分の行動にも自然に変化が現れると思います。
このように、人の言動は組織文化によって揺さぶられているため、組織文化は良くも悪くもパフォーマンスに影響するのです。
例えば、会社のオンラインイベントで「参加者は音声をミュートにしてください」というアナウンスに従うのは、ルールを破る文化がないからではないでしょうか。そのような組織文化によって、「ほかの参加者が従っているから自分もルールを守ろう」という行動になります。
組織文化は我々の行動をこのようにコントロールしているのです。
これが、「うちの会社ってだいたいルールを守らないよね」という文化のある組織だったら、どのように結果が変わるでしょうか。ルールを破ることが容易にできるため、いい加減な組織になっていくのではないかと考えられます。
組織文化が行動にプラスの影響を与える実例として、オリンピックでの勝利チームを上げることができます。
彼らはよく「ファミリーだから勝てたのだ」と言いますが、この「ファミリー」という言葉には共通の定義があると考えられます。それは、意見交換が自由・活発でありながらも、一緒にいてリラックスできる状態のことです。
無言のままでも苦にならないけれども、お互いの小さな違和感についてのフィードバックは積極的に行うことができるという組織文化が、個々の実力以上の結果につながってきたのです。
ちなみに、戦略論を発展させマネジメントの神様とまで言われたドラッカーでさえ、「結局、どんな戦略も文化の前では機能しなくなる」と発言したとされています。
彼によるこの言葉は、組織文化がパフォーマンスに与える影響が大きいということをよく反映していると言えるでしょう。
勝ちぐせのある組織文化は、個々の実力の総計以上の、良いパフォーマンスを生み出します。
個々人の役割は異なっても、感情を共有したチームが一つの有機体として動くことができれば、そのチームのパフォーマンスが良いというのも頷けるのではないでしょうか。
組織を構成しているのが人間である以上、組織文化を醸成していくためには、組織の機能面のみにフォーカスするのではなく、まずは人の感情面をベースにして取り組むことがよいのかもしれません。
そのための最初のステップとして、当事者となる「仲間」を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
中竹竜二氏 ご紹介
株式会社チームボックス 代表取締役/一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟副理事長/一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事
1973年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。
2010年、日本ラグビーフットボール協会 「コーチのコーチ」指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。
2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。
2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。