Project

脳と向き合う―Brain Musicプロジェクト

楽天ピープル&カルチャー研究所、Spotify、JINSとともに共同研究「Brain Music」プロジェクトを行った株式会社ハコスコの代表であり、脳科学者、医師でもある藤井直敬氏によるプロジェクト報告です。
あまり向き合うことのない脳のはたらきについて知ることで、音楽を効果的に使ってご自身の働き方を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。

Brain Musicプロジェクト

Brain Musicプロジェクトは、音楽とヒトのパフォーマンスの関係を明らかにして、その時の脳活動からその仕組を理解しようというプロジェクトです。2019年の12月に楽天ピープル&カルチャー研究所、Spotify、JINSの協力を得てキックオフイベント行い、半年間かけて株式会社ハコスコが実験・解析を行いました。

音楽と脳

音楽がヒトのパフォーマンスに影響を与える可能性は、モーツァルト効果のような事例で広く知られています。しかしその効果と脳機能との関係性はまだ十分に明らかになっていません。モーツァルト効果で知られるKV448は比較的テンポの早い曲ですが、実際はモーツァルトに限らず同様の早いテンポの曲であれば類似の効果があることが示されています。多くのヒトが、日常の業務中や学習中などに音楽を聞く習慣を持っています。もし音楽が私達の行動に悪影響を与えるのであれば業務中、学習中に音楽を聞くことでパフォーマンスが下がるはずですし、それをあえて習慣化することは無いはずです。また、トップアスリートが本番直前に同じ音楽を聞くことで競技に集中し高い成績を達成する事例は数多く知られています。 これらのことから、ヒトのパフォーマンスに対して音楽が無意識に与える一定の効用は存在するのではないかと考えられます。そこで、今回の実験ではその音楽がもたらすパフォーマンスの変化とその時の脳活動を定量的に計測することで、音楽が無意識に与える効用とそれを支える脳機能を明らかにするための実験を行いました。

音楽が与えた影響

今回の研究では、音楽(使用したプレイリストはこちら)が与える計算課題への影響とそれに伴う脳活動を記録・解析しました。31名の被験者に対して、計算課題を実行してもらい、その課題期間中の脳活動をNIRSを用いて前頭葉で記録しました。課題はクレペリンテストを用いた計算課題です。条件としては、課題実行前の休憩中に音楽を聞かせた条件と音楽を聞いていない2条件を設定し、その後の課題遂行中の計算課題の作業量・誤答数と脳活動の変化を解析しました。

実験の様子

その結果、課題実行前に音楽を聞かせた場合と聞かせなかった場合の作業量を比較すると音楽を聞かせた条件で計算課題の成績が課題の後半フェーズで向上することが分かりました。同様の変化は音楽なし条件では認められませんでした。またその際の脳活動を音楽のありなしで比較すると、音楽を聞いた後の左前頭葉の課題関連の脳血流上昇量は音楽なしの場合と比較して有意に低いことが示されました。 本実験の結果は、音楽を聞くことで認知課題のパフォーマンスが向上しつつ、課題実行に必要な脳血流の増加が低く抑えられていること、つまり課題で消費している脳内のエネルギー量が少なく左の前頭葉が効率よく利用されていたと考えられます。

音楽の可能性

本研究で音楽とヒトのパフォーマンスの間に脳の効率的な利用という意味でポジティブな関係があることが示唆されました。今回BrainMusicで行ったような脳活動可視化ツールを用いて自分自身の脳と向き合うことで私達の潜在的能力を開発する指標として新しい可能性が広がると考えられます。コロナの影響で当初予定していた数より少ない被験者での実験結果ですが、今後様々な条件を付加しての追加の比較実験を行うことで音楽とヒトとの関係性を明らかに出来ればと思います。

藤井直敬
脳科学者、医師
株式会社ハコスコ代表取締役
XRコンソーシアム代表理事
デジタルハリウッド大学大学院教授
東北大学医学部特任教授