Column

コロナ禍で大学生活を送った「24卒」の声

 2020年に新型コロナウイルスの流行が始まってからしばらくの間、私たちの生活には制限がかかりました。そのため、多くの企業で今までとは違った働き方をし、そして学生も今までとは異なる学生生活を送ることになりました。

 中でも2020年に大学に入学した学生は、入学当初から数年間、このような特殊な状況下での学生生活を経験することになりました。彼らの多くは2024年の春に、大学を卒業します。この通称「24卒」の大学生は、どのような経験をし、どのようなことを考えているのでしょうか。

 今回のコラムでは、もうすぐ社会人となる24卒の学生12名に行ったインタビューを通じて見えてきた、彼らの特徴についてご紹介します。


2020年入学の、大学生の環境とは?

 2020年は大学の入学式が延期され、授業も例年に比べて遅れての開始となりました。対面での授業ができないことから、彼らの多くは1年次の全ての授業をオンラインで受講しました。そしてこの状況は、学年が上がってからもしばらく続くことになります。

 また、新型コロナウイルスの流行による行動制限の影響は、課外活動にも及びました。その一例は、サークル活動です。
 新しい年度が始まり、新入生が入学してきた時に行われる各サークルの新入生歓迎会は、そのサークルの雰囲気やそこに所属している人たちについて知る良いきっかけです。しかし、この歓迎会もすべてオンラインになりました。そのため、実際に人と会うことなくサークルを選ぶケースが多く、自分に合ったコミュニティを選択することが難しい状況となった人も少なくないようです。

 学業に関することであれ、課外活動であれ、本来であれば学校に行くだけでも様々な情報に触れることができたり、いろいろなチャネルから情報を得る機会がありましたが、コロナ禍のリモートの状況では、自分から積極的に獲得しに行かなければ情報が得られないという状況でした。
 これだけでも、コロナ前とはかなり違う状況であることが想像できるのではと思います。

 ここからは、インタビューを通じて見えてきた、彼らの置かれていた状況、そしてその状況下での彼らの考え方や行動やについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

他者との関係構築の難しさと、関係解消の容易さ

 オンラインという手段で大学生活をスタートさせた彼らは、周囲の人との関係を構築することが難しい状況でした。

 大学生活において、必修で週に数回同級生と顔を合わせる機会がある語学のクラスは、通常であれば入学当初に学内でのネットワーキングや情報収集の土台となるコミュニティとなるケースが多いと思われます。しかし、そうした語学の授業も全てオンラインで行われました。場合によっては、他の学生と一切かかわることのできないオンデマンド形式の授業もありました。このようなことは、他の必修科目でも同様だったようです。
 また、大人数で受講する講義では教員の話を聞くのみで、周囲の学生と関わることは少なかったようです。

 「オンラインでは対面と違い、雑談がしにくい。雑談は、いろいろな人とつながるきっかけになるのに、そうしたきっかけをなかなか持てず、ネットワークを広げることができなかった。」
 「他の学生とグループになって課題に取り組むことがあったとしても、自己紹介の機会が十分でなく、ただただ一緒に課題を行うだけの関係性に止まってしまい、その後さらに親しい仲になることはなかった。」

 インタビューからはこうした声が何件かみられ、オンライン授業での人間関係の構築の難しさがうかがえます。

 「対面で行っているサークル活動に参加すればネットワークが広がると思ったが、感染のリスクを考えると実行できなかった(特に高齢者が同居している場合など)。また、サークルの選択に時間をかけてしまっている間に、既に入会している他の学生同士で関係を築いて親しくなっている様子も見えたので、そこに自分が入り込むことに躊躇してしまうこともあった。」

 このように課外活動に関しても、慎重に行動しようとしたことで周囲の動きから取り残されてしまった人もいるようです。

 一方、人とのつながりの構築が難しいコロナ禍での状況は、「自分と価値観や性格が合わない人たちとのつながりを、断ち切りやすい環境だった」という意見もみられました。対面での偶然の出会いもなく、ビデオ通話をオフにすればいつでも会話から抜け出すことができる環境では、このような副産物もあったようです。

 こうした環境に慣れきってしまうと「対面での人的交流が復活した後に、自分と異なる考えや価値観を持つ人とも継続的に一緒にどうにかやっていく、という意識が薄れてしまっているのではないか」ということを懸念している人もいました。

挑戦する意欲への二極分化

 24卒の学生は大学生活で、「何かに参加すること」や「何かにチャレンジすること」をあきらめざるを得ないケースも多かったようです。今まで行われていた行事が中止になったり、海外渡航が容易でなくなったことなど、様々な障壁があったためです。
 このような状況がずっと続いたことで、「何かにチャレンジすること」自体にあきらめを感じ、いろいろな場面で積極的になれなかった人がいます。

 その一方で、「コロナ禍で多くの挑戦ができなかったからこそ、自分の本当にやりたいことが明確になり、パンデミックが少し落ち着いてきた頃には、逆に積極的にそのやりたいことに向かって挑戦することができた」と述べる人もいました。

 こうした違いにはもともとの性格が影響しているということも、インタビューを通じてある程度うかがうことができました。しかしながら、この不可抗力ともいえる大きな障壁のため、本来であれば何かに参加やチャレンジをしていた人も、そうできなくなってしまったということはあるでしょう。そのせいで、大きな制限があった中でも自分のやりたいことを明確にして後でチャレンジできた人と、そうでない人の差が大きくなってしまったとも考えられます。

オンラインでの交流スキルの高さ

 オンラインで他者との関係構築を行うことを余儀なくされていた24卒の学生からは、「オンラインでの交流スキルが高い」という自己評価が多くみられました。

 インタビューで、「コロナ禍で大学生活を送ったからこそ身に付けることができたスキル」について尋ねたところ、「オンラインミーティングツールのリテラシー」というものはもちろんのこと、「オンラインで他者との関係を構築する際の注意点」や「オンラインでの対話スキル」という回答が多く挙がりました。
 その理由は、「オンラインでは、対面でのコミュニケーションよりも相手に伝わる情報が制限されるため、様々な面に注意を払う必要があったから」だそうです。

 オンラインでの交流スキルの具体例をいくつか教えてもらいました。例えば、リアクションの仕方です。
 オンラインでは相手に伝わる情報が対面よりも限られるため、対話をスムーズに行うためには相手の発言が自分にきちんと伝わっていることをきちんと相手に伝え、相手の不安や疑念を減らす必要がありました。そのため、オンラインミーティングのツールのリアクションボタンを活用したり、対面でのコミュニケーション時よりも大きいアクションをしたりなどの工夫を行ったとのことです。

 そして、対話の間の取り方も大事だという人もいました。
 対面時でも複数の人の発言のタイミングが被ることがありますが、オンラインではその確率がより高くなったという経験は、皆さんもあるのではないでしょうか。そのため、「相手の発言を遮らないよう自分の発話のタイミングを見計らいながら対話を進めた」とのことです。

 また、「コロナ禍での経験で、社会人になってからの人間関係の構築で活かせそうなことはあるか」という問いには、次のような回答がありました。

 「自己紹介をきちんとすること。自己紹介で話す内容によって、他者に与える印象が大きく変化する。自己紹介の際にきちんと自己開示ができると、相手との関係構築がしやすくなる。」
 「共通点に焦点を当てること。長く交友関係が続く人は、自分との共通点が多いと感じた。他者と関係を築く上では、会う回数を重ねることも重要だが、相手との共通点を探すことを大切にしている。」

 これらは、オンラインでのコミュニケーションの経験から得られた知見ではありますが、対面でのコミュニケーションや人間関係の構築の場面にも適用できる、良い視点だと思われます。

縦のつながりの不足

 コロナ禍では、行動制限などにより様々な活動が中止または規模の縮小、あるいは別のやり方で行うこととなり、それ以前の運営方法では行われなくなりました。その影響で、24卒の学生は上級生との交流を行うことや、上級生の持つナレッジの継承が難しい状況にありました。
 その結果、「自分たちの学年が上がって上級生になった時に、サークル活動やイベント運営のノウハウが足りない」という状況になった人がいました。今までのやり方ではできなかったこと、そしてパンデミックが落ち着いた時にも「通常モード」での運営方法がよくわからないということが起こったようです。
 しかしながら、同学年の「わからないもの同士の横のつながり」は強化され、「とりあえずやってみる」というスピリッツが育まれたという声も聞かれました。

 また、外出自粛要請などにより、飲み会を行う機会がほとんどなくなりました。そのため、「目上の人を交えた大規模な飲み会に参加した経験がほとんどなく、飲み会でのお作法がよくわからない」「社会人になってから、そういった場でのマナーを守ることができるかどうか不安だ」という意見もみられました。
 24卒の学生に対しては、業務に直接関係することだけでなく、様々な面でのナレッジの継承をしてあげることが有効かもしれません。

オフラインとオンライン、それぞれの良いところを求める

 最後に、「就職先の企業や組織に、どのようなことを期待するか」という質問をしたところ、「人間関係の構築の機会」と「柔軟な働き方」の提供という2点が共通意見として多く挙がる傾向がありました。

 まず「人間関係の構築の機会」ですが、これは大学生時代にそのような機会そのものが少なく、かつ様々な制限や制約の中でそれを行ってきた彼らの、強い望みなのでしょう。また、大学生活では上級生とのつながりを持ちにくかったため、社会人になってからは同期とのつながりだけでなく、先輩との縦のつながりも求めているようです。
 彼らは、対面せずに人間関係を構築することの難しさを体感しているため、オンラインでの交流スキルは身に付けたものの、「人と直接会う」ことの重要性にも気付いているようです。皆さんの組織でも、オフラインでの交流の場を積極的に設けてみてはいかがでしょうか。

 次に、「柔軟な働き方」という点では、リモートワークやフレックスタイム制の下で仕事を行いたいという学生が多いようです。特に、24卒の学生は、オンラインのツールを用いて授業の課題やゼミの活動、サークル活動などに取り組んできたため、オンラインのツールを用いて時間や場所の制約があまりない状態で作業を行う、あるいは人とつながることの利便性の高さや効率の良さを知っています。したがって社会人となってからも、このような柔軟かつ効率の良い働き方を求めているようです。
 コロナ禍で大学生活を送った新社会人は、昨今のオフィス中心での勤務への回帰の風潮に、抵抗感を持つかもしれません。社会人の先輩である皆さんは、彼らに「それ、オンラインでよくないですか?」と聞かれた際に、なぜ、どのような理由で、どのような時にオフィスに集まる方がより良い働き方ができるのか、ということを答えられるようにするために、対面で仕事をすることの意義や意味を今から再確認してみてはいかがでしょうか。


 今回は、24卒の学生へのインタビューを通して見えてきた、彼らの傾向についてまとめてみました。

 彼らは、オンラインの良さを知っており、オンラインでのコミュニケーションに長けていながらも、オンラインのみで人間関係を構築することの難しさを知っています。したがって、対面での人間関係の構築やコミュニケーションの重要性も理解しています。また、人間関係を構築する際には、自己開示をきちんと行うことの重要さを体感しています。

 同時に、人との関係を断ち切りやすい環境であったため、対面でのコミュニケーションが中心となった時に、価値観の違う人との関係維持に不安があるようです。

 チャレンジすることを制限されていたため、コロナが落ち着いた後でもチャレンジへの意欲や意識が乏しくなってしまった人は少なくないようにみえます。反対に、チャレンジ精神に火が付いた人もいるようです。

 また、縦のつながりを欲しており、先輩から学べることの大事さを知っている人も多いと考えられます。

 彼らは2024年の4月に、皆さんの仲間になります。先輩として教えてあげられることは何か、また、彼らから学べるものは何かということを今から想定し、ウェルビーイングな組織づくりに役立ててみてはいかがでしょうか。