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カルチャー・インテリジェンス(CQ)―異なる文化的背景を持つ人々と効果的にコミュニケーションを行う能力:その2

 「文化の違い」という言葉を目にすると、まず国や地域での違いを想起しがちです。しかし、文化とは国や地域に限定したものではなく、例えば同じ国の中でも会社組織によって別々のカルチャーを有していたり、同じ社内でも部署や社員の性別、年代の違いによってカルチャーが異なることがあるということは、十分に考えられます。

 このような様々な文化の違いにより、コミュニケーションが困難になる経験を、皆さんはお持ちではないでしょうか?

 そこで、2020年に著書『Don’t Mess With My Professionalism!』を出版された、LeadershipCQの CEO、バネッサ・バロス博士に、文化的背景の違いを超えて円滑にコミュニケーションを図る力、「カルチャー・インテリジェンス(CQ)」についてご寄稿いただきました。

 全2回のシリーズで、今回は第2回です。


 前回はカルチャー・インテリジェンス(CQ)とは何か、そしてCQの4つの側面のうちの2つ、「CQドライブ(意欲)」と「CQナレッジ(知識)」についてお話ししました。(詳細はこちらをご覧ください。)
 今回は残りの2つ、「CQストラテジー(戦略)」と「CQアクション(行動)」についてお話しします。

CQストラテジー(戦略)

 CQストラテジーは、見聞したものから短絡的に結論を導くのを防ぐことに役立ちます。CQストラテジーによって、間違った判断と、それにより引き起こされる不適切な反応を抑止することができるでしょう。

 CQストラテジーとは、「他文化に関する情報を活用し、コミュニケーションを効果的に行うための新しい戦略を生み出す能力」のことです。CQストラテジーには、「計画する」「認知する」「確認する(チェック)」といったコンピテンシー(能力要素)が必要とされます。

 それらコンピテンシーの内容について詳しく見ていきましょう。

 他文化との接触の前に準備し、「計画」を立てること。
 これから出逢う「カルチャー」について深く思考をし、どのような行動を取るべきかを先立って考えておくことが、異文化交流をより実りのあるものにします。その「カルチャー」が自分や他者の行動にどのような影響を与えるかを思考しておくことで、より適切な反応をすることができるようになるでしょう。

 他文化下での自分や他人の感情や思考プロセスを、リアルタイムに「認知」し、「モニタリング」すること。
 十分な情報が得られるまで「意識的に判断を保留する」ことが重要です。「カルチャー」に関連する出来事が、自他の行動にどのような影響を与えそうかということを常に意識することが、「判断の保留」を促します。文化的に異なる他者の視点から物事を見る試みを自ら積極的に行い、異なる視点から状況を理解できることは、非常に価値のあるスキルなのです。

 「確認する(チェック)」とは、他文化との交流の中で起こった事象をもとに、自分の中の事前の想定を見直し、自分の知識を更新・調整していくことです。
 新しい情報に基づいて、自分の持つ視点を改めて一から問うていく必要があります。「期待・予期していた展開」と「実際に起こった事象」を比較することで、客観的な見解を持つことができるようになるでしょう。

CQアクション(行動)

 さて、「意欲(モチベーション)」を高め、「知識」を増やし、「戦略」を充実させた今、適切な「行動(アクション)」をとっていく準備が整いました。不適切で誤った「行動」は、深刻な誤解や対立につながりかねません。適切なCQアクションをとることで、人間関係を効果的にマネジメントすることができるのです。

 CQアクションにおいては、ノンバーバル(非言語)・コミュニケーションが重要な役割を果たします。なぜならば、会話の印象を決める上で「言葉」は7%の影響しか与えず、「ボディ・ランゲージ」は55%、「話し方」は38%を占めるという調査結果があるからです。積極的傾聴(アクティブ・リスニング)スキルは非常に大切なコンピテンシー(能力)であり、声の適切な使い方やトーン(声のボリュームの大小)スキルの習得も重要です。

 またCQアクションでは、バーバル(言語の)・コミュニケーションにおける、直接的なコミュニケーション(ローコンテクストな表現方法)と間接的なコミュニケーション(ハイコンテクストな表現方法)の適切な使い分けも重要な要素となります。
 ハイコンテクスト(間接的)な文化圏の人が、言葉としては言っていないものの言外に「No」という表現を使っていることを察知できるのか?どういう状況であれば、相手の面子を潰さずにストレートにものを言ってよいか?そういったことについての理解や判断も必要になるでしょう。

 また、スピーチアクト(言語行為)もバーバル・コミュニケーションの一部であり、これは「謝罪」、「フィードバック」、「称賛」などを伝える複雑性の高いコミュニケーション方法などを含みます。
 例えば、「謝罪」をどう伝えるかは文化によって大きく異なるため、そういったコミュニケーションの細かいニュアンスを理解することが非常に役立つでしょう。事情の説明をすることについても、文化によって効果的であったり、逆にそうでなかったりするため、どういったカルチャーの中で謝罪をしようとしているのかを考え、それに応じて伝える「内容」や「手法」を慎重に選択する必要があります。

 「相手に効果的に質問をする」ことは、修練を要する技術です。
 例えば間接的コミュニケーションの傾向が強いカルチャーの中でクローズド・クエスチョン(イエスかノーで答えるような質問)をしてしまうと正確でない答えを引き出してしまう恐れがあるため、通常、オープン・クエスチョン(自由回答)の形で質問をする方が適切だと考えられています。直面しているビジネス上の問題の背景にある本当の原因を明らかにするためには、心の奥で何かをたくらむことなく、率直に相手に質問をするということも重要です。

 一般論としては、リアクションのスピードを落とすことで、適切に自分の行動を柔軟に変化させやすくなると言われています。
 また、人々の様々な言語的、非言語的な言動を観察し記録することで、そこから沢山の手がかりを得ることができるようになるでしょう。そして、新しく習得した言動を練習していくことで、自らの対応の幅は広がっていきます。
 このようなプロセスで継続的に改善を行っていくためには、常に他者からのフィードバックを求め、また自らも他者にフィードバックを提供していきましょう。


 意欲的に「違い」に興味を持つこと。次に「違い」を知り、それを客観視すること。そして他文化への接触に際しては計画・認知・確認を戦略的に行うこと。最後に適切な言動を選択すること。
 これらが、CQを用いたコミュニケーションのステップです。

 皆さんの職場やプライベートでの、文化の異なる人どうしのコミュニケーションのシーンで実践し、活用してみてはいかがでしょうか?


参考文献
・Ang, S. & Van Dyne, L. 2008 “Conceptualization of Cultural Intelligence” in Handbook of Cultural Intelligence: Theory, Measurement, and Applications (Armonk, NY: M.E. Sharpe, 2008), 3.
・Barros V. 2020 Don’t Mess With My Professionalism!. Penguin Random House.
・Hofstede, G. 1980,2001. Culture’s Consequences: Comparing Values, Behaviors, Institutions and Organizations Across Nations. Thousand Oaks, CA: Sage Publications
・Sternberg, R. J. (1980) Reasoning, problem solving, and intelligence. In: Handbook of human intelligence, ed. Sternberg, R. J.. New York: Cambridge University Press.
・Trompenaars, F. 1993. Riding the Waves of Culture: Understanding Cultural Diversity in Business. London: Economists Books.
・Triandis, H.C. 1994. Culture and Social Behavior. New York: McGraw-Hill.


※本記事はバネッサ・バロス博士によるオリジナル記事です。

参考リンク
バネッサ・バロス(Vanessa Barros)博士について
著書『Don’t Mess With My Professionalism!』