今年2月に『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』を上梓した、ピープル&カルチャー研究所アドバイザーを務める中竹竜二氏。「ウィニングカルチャー」は楽天ピープル&カルチャー研究所の研究テーマの一つでもあり、F Cバルセロナをはじめとする世界の常勝チームに共通するエッセンスについて、度々議論を重ねてきました。
勝ちぐせのある強い組織文化はどのようにつくりだすのか。中竹さんはダイヤモンドオンラインで、「中竹竜二のウィニングカルチャー」を連載中です。今回は、「オフ・ザ・フィールド」という考え方に関する記事をご紹介します。
これまでスポーツの世界では、競技の舞台で起こる出来事が何よりも重視されてきました。特にボールゲームでは、「オン・ザ・ボール」というボールを持つプレーヤーの動きばかりを追ってきました。
しかし最近は「オフ・ザ・ボール」という、ボールを持たないプレーヤーの動きが注目されるようになっています。
そもそもボールゲームでは、プレーヤー全員に対して、与えられるボールはたった一つ。試合中はボールを持たないプレーヤーのほうが多く、彼らがいかに有機的かつ効果的に動くかが、試合に大きな影響を与えることがわかってきています。
たとえばサッカーなら、自分たちが相手のゴール前に迫っているとき、味方のゴールキーパーの動きを追いかける観客はほとんどいないと思います。ところがゴールキーパーは、こうしたシーンで非常に大切な指示を出しています。ゴールキーパーの指示があるからこそ、不用意にボールを奪われても相手の攻撃を遅らせることができるのです。
ラグビーでも、味方の最後方に位置するフルバックというポジションは、守備のうえでは最後の砦です。そのため試合中にボールを触ることや相手をタックルで仕留めることはそれほど多くありません。しかし、相手が攻めようとする場合には、自陣に空いた広いスペースを守るために先を読みながら細かく移動し、相手の攻撃の芽を摘むことが求められます。
スポーツで試合の行方を左右するのは、オフ・ザ・ボールの動きにあると言っても過言ではありません。
この考え方が浸透し、サッカーやラグビーの世界では、選手の契約金や年俸などの交渉にも、オフ・ザ・ボールの貢献度が影響するようになっています。得点を決めるプレーヤーばかりが高く評価されるのではなく、得点を狙える環境をいかに整えることができたのかという観点から、プレーヤーが評価されはじめているのです。
オフ・ザ・ボールの動向が勝利に直結するという考え方は、さらに進化しています。
強くなるために必要な「オフ・ザ・フィールド」
いま注目されているのは「オフ・ザ・フィールド」の動向です。
どんな一流選手でも、体を動かしてその競技に取り組むのは、一日24時間のうち数時間しかありません。それ以外は食事や睡眠、肉体や精神の調子を整えたり、リラックスしたりと、競技以外に多大な時間が割かれています。
だからこそ、選手のパフォーマンスを上げるには、ピッチの外の「オフ・ザ・フィールド」をどう過ごすのかが重要な意味を持ちます。
極限まで鍛え、最先端のテクノロジーなどを活用して戦術や戦略を練ったうえで、オフ・ザ・フィールドに目を配り、その時間を充実させることが大切だと考えられるようになっているのです。
実際、私がラグビーU20日本代表の監督を務めていたときも、遠征や合宿で重視したのは、食事や睡眠、休息やレクリエーションといったオフ・ザ・フィールドの時間の使い方でした。
たとえばスマートフォン。若い選手はどうしても空き時間にスマホを触りたがります。しかしスマホに没頭すると、仲間たちと交流する時間が限られてしまいます。
そこでミーティングルームや食堂など、みんなが集まるパブリックスペースではスマホを触らないように決めました。代わりに仲間と直接、会話をすることを推奨したのです。
「知らない仲間と話すのは、最初は緊張するかもしれない。でも勇気を持って声をかけてみたら、きっといいチームメイトになれる。チャレンジしてみよう」
オフ・ザ・フィールドで強くなったつながりが、オン・ザ・フィールドでいざというときのコミュニケーションに役立ちます。ひいてはオフ・ザ・フィールドの行動が、試合の成果に強く影響を及ぼすと選手たちに伝えました。
すると遠征や合宿のあとのレポートで、選手たちはこんな感想をまとめてくれました。
「オフ・ザ・フィールドがしっかりしていれば、試合もうまくいくと確信した」
「今回の遠征でオン・ザ・フィールドの部分が順調に成長できたのは、オフ・ザ・フィールドの部分がしっかりしたからだと思った」
U20日本代表だけではありません。ラグビーの強豪国であるニュージーランド代表のオールブラックスも、オン・ザ・フィールドだけでなく、オフ・ザ・フィールドを重視しています。
「Better People Make Better All Blacks」
人として成長すればチームも成長する、という考え方を掲げているのです。
世界各国、どんなスポーツでも強いチームになるほど、競技には直接関係のないオフ・ザ・フィールドを大事にしています。
これは企業経営や組織運営、チームマネジメントもまったく同じです。
目に見える成果を生みだすには、オン・ザ・フィールドの動きだけではなく、オフ・ザ・フィールドにも目を配る必要があります。 そして、オン・ザ・フィールドとオフ・ザ・フィールド、両方の土台となる組織文化に目を向けることが大切なのです。
※本記事はDIAMOND onlineに連載中の「中竹竜二のウィニングカルチャー」より、ダイヤモンド社の転載許可を得た記事について掲載しています。
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