一般的に「ストレス」という言葉からは、「つらいこと」「苦しいこと」などのネガティブなイメージが想起され、「ストレスなどこの世に存在しない方が良い」と考える人が多いのではないでしょうか。
しかし、ストレス自体は古くから生物が生き残るための大事な仕組みであり、これを完全になくすことはできません。
では、ストレスを感じることの多いこの現代社会において、どのようにストレスと「お付き合い」をしていけばよいのでしょうか?
そしてそれが私たちのウェルビーイング向上にどのようにつながるのでしょうか?
2021年4月に「HAPPY STRESS(ハッピーストレス) ストレスがあなたの脳を進化させる」を上梓された、応用神経科学者でありDAncing Einstein代表の青砥瑞人氏に、そのヒントについてご寄稿いただきました。
全2回のシリーズで今回は第2回、「ストレスをどう見るか」の選択権はあなた自身にある、についてご紹介いただきます。
突然ですが、質問です。
今、あなたは何に注意を向けていますか?
たとえば今、この記事をご自宅で読んでいるとして…
ふと見渡せば、PCが乗っている机、ノートや筆記用具、マグカップ、ご家族や窓の外の景色など、様々なものが目に入っているはずです。また、視覚的な刺激だけでなく、エアコンの音や話し声などの聴覚的な刺激、あるいは、身にまとっている服からの触覚的な刺激など、無数の刺激を浴びている状態のはずです。
しかし不思議と、この記事を読んでいる最中のあなたの注意は、ほぼこの記事に独占されているのではないでしょうか。
脳とストレス
私たちは、常に外側、そして内側の世界から様々な刺激を受けています。しかし、脳は一度にたくさんの情報を処理することができません。ある研究結果(※1)から、脳に届けられる全ての情報のうち、実際に認識の対象となるのはそのうちの約1000分の1程度とも言われています。
また、上記のように認識の対象が限定的であるというだけではなく、私たちの脳は、できていないところ、足りていないところなど、ネガティブなことに注意が向きやすいという特徴も持っています。
これをネガティビティバイアスと言います。
そして、ネガティブなことに注意が向きやすいということは、ストレス反応も導きやすいということです。
また、ストレスと聞くと、ネガティブなイメージを持たれる方も多いかと思います。しかしストレスとは本来、私たちを危険から守るために備わっているお知らせ機能です。そのため、集中力などのパフォーマンスを高めてくれたり、私たちの成長や幸せに貢献してくれたりと、実は良い効果を与えてくれることもあります。
このようなストレスを「ブライトストレス」と呼び、逆に脳機能の低下に繋がるようなストレスを「ダークストレス」と呼びます。
しかし、ブライトストレスもダークストレスも、メカニズムや合成される化学物質などに関して言うと、実は本質的には大きな違いはありません。ストレスの捉え方、そしてご自身の日々の過ごし方や在り方で、ブライトストレスになるかダークストレスになるか、如何ようにも変化しうるのです。
ポジティブ思考は育てられる
前述のように、脳の特徴から考えると私たちはネガティブ思考に陥りやすいです。それゆえにネガティブな思考のループに入ってしまい、ダークストレスを自ら増長してしまうこともしばしばあります。しかし、意識的にポジティブサイドにも目を向け続けることで、確実にポジティブ思考な神経回路を育むことができます。
神経細胞の大原則に「Use it or lose it」というものがあります。使われれば育まれ、使わなければ失う、という意味です。ポジティブ思考というものも、生まれもった性格や才能によるものではありません。もちろん個人差はありますが、意識的に使い続けることで後天的に育てることができるスキルなのです。
そのため、普段からポジティブな面も見てみようという「意識づけ」や「心がけ」をすることは、とても重要です。意識をすれば、どのような情報を自分の中に残しておくべきかを選択できるのです。しかし、意識をしない限りは、これまでと同じような思考や行動に繋がる神経回路が使われ、ネガティビティバイアスにより、ネガティブなものに注意が向きやすくなる傾向があります。
普段からポジティブな神経回路を使い、少しずつ育てていくことで、私たちの思考や行動は変化していきます。
選択権はあなた自身にある
ポジティブな面に注意が向くようになると、きっとあなたご自身の世界の認識も変わっていくはずです。今までダークストレス化しやすかったストレスも、ブライトストレスとして捉えられるようになるでしょう。
現在のあなたがこの記事に注意を向けることを選択してくださっているように、私たちは意識的に注意を向ける対象を選ぶことができます。注意の限定性やネガティビティバイアスという脳の仕組みを受け入れた上で、どうせなら限りある注意を、ご自身の好きなものや幸せを感じることに向けてみてはいかがでしょうか。
(※1)Willis, J. 『Research-Based Strategies to Ignite Student Learning: Insights from a Neurologist and Classroom Teacher』Assn for Supervision & Curriculum
与えられた情報のうち、ごく限られた情報だけを認識する、わたしたちの脳。
なにも意識しなければ、ネガティビティバイアスにより、脳が認識する限られた情報はネガティブなものが多くなるようです。
しかし、普段から意識して物事のポジティブな面を見るクセをつけることで、ポジティブな神経回路が強化され、ストレスをプライトストレスとして捉えられるようになります。
これらの脳の仕組みをうまく利用して、ブライトストレスをあなたの仕事の強力な味方とし、パフォーマンス向上に活かしてみてはいかがでしょうか?
そうすると幸せを感じられる時間も増し、よりウェルビーイングな日々が過ごせるかもしれません。
※本記事は青砥瑞人氏によるオリジナル記事です。
参考リンク
・DAncing Einstein
・青砥瑞人『HAPPY STRESS(ハッピーストレス)ストレスがあなたの脳を進化させる』
・工藤勇一, 青砥瑞人『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』
・青砥瑞人『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』
・青砥瑞人『BRAIN DRIVEN(ブレインドリブン)パフォーマンスが高まる脳の状態とは』