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企業価値向上に寄与するのは業績が先?働きがいが先?1100万件超の社員クチコミサイトをAIで分析すると-第3回:「にわとり」と「たまご」の相互作用

 企業は「働きがい」や「働きやすさ」と「業績」の、どちらを優先すればよいのでしょうか?

 オープンワーク社長の大澤様より、「働きがい」や「働きやすさ」と「企業業績」との関係について研究された論文についての解説をご寄稿いただきました。全3回のシリーズでお届けします。

 今回は最終回の第3回、「にわとり」と「たまご」の相互作用についてです。


 1,100万件を超える社員クチコミ・評価スコアを有する就職・転職プラットフォームOpenWork CEOの大澤です。

 これまでに、本研究の結論とその調査プロセスについてご説明してきました。過去の投稿はこちら。
第1回:HR業界の「にわとりとたまご論争」
第2回:「にわとり」と「たまご」の相互作用

 今回は、結果に対する考察をご紹介したいと思います。

3分でわかる研究結果

 研究結果は第1回でも書きましたが、再掲するとこういう結果になりました。

 図内の財務指標の定義は以下の通りです。

・ROE=当期利益/(前期・当期自己資本平均値)
・売上高営業利益率=営業利益/売上高
・配当性向=配当/当期利益
・サステイナブル成長率=ROE×(1-配当性向) ※企業の利益がどの程度内部投資に回るか、と読み替えてください。

 まずは働きがい・働きやすさ→企業財務について。

 働きがいが改善されると、3年後の売上高変化率・売上原価変化率に対して統計的にプラスのに寄与することが示された。これは、働きがいの上昇はその後の企業成長の要因になっていることが考えられます。

 また働きやすさが改善されると、2-3年後の売上高営業利益率に対して統計的に有意にプラスに寄与することが示された。これは、働きやすさの改善により、退職率の低下や採用力の強化につながり、人件費が押さえられていることが考えられます。

 次に企業財務→働きがい・働きやすさをみていきましょう。企業財務が働きやすさに影響を与えるというデータはそこまで顕著にはあらわれませんでした。

 一方で、ROEやサステイナブル成長率が改善されると、1-2年後の働きがいに対して統計的にプラスに寄与することが示されました。サステイナブル成長率は、企業の利益がどの程度内部投資に回るかと捉えることができるので、内部投資が新規事業をはじめとした様々な施策に投下されることで従業員の働きがいにつながっている可能性があります。

 また、働きがいと働きやすさ、株式パフォーマンスはもう少し噛み砕くとこういう結果になっています。

 株式パフォーマンスについては若干考察に苦しむ内容もありました。
 まず、働きがい・働きやすさが改善すると、9-12ヶ月後に統計的に有意なαが出ていました。働きがい単体でみると、なんと0-4ヶ月後の株式パフォーマンスに影響があり、一方で働きやすさのスコア変化は、株式パフォーマンスには影響がありませんでした。

 働きやすさだけを改善しても株式パフォーマンスに影響はなさそうなのは分からないでもないですよね。働きがいとセットでこそ、労働生産性は向上しそうですね。

 疑問が残る点としては、働きがいだけを改善した場合の方が、早々に株式パフォーマンスへ影響があるということです。しかも0-4ヶ月というタイムラグは説明がつきにくい…本件については、今後の研究に期待をしたいところです。

さいごに

 長々と書きましたが、いかがでしたでしょうか?

まとめ
・「働きがい」or「働きやすさ」は財務指標に2-3年遅れて影響する。
・「働きがい」&「働きやすさ」は株価にも1年遅れて影響する。
・「財務指標」は「働きがい」に1-2年遅れて影響する。

 アンゾフとチャンドラーの「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」的な議論のようにも感じますが、個人的にはどちらも大事だと思っています。

 一経営者としては、業績向上と組織づくりのどちらかだけをやっていても駄目で、世の中に大きな価値を届けられる事業創出も必要ですし、企業文化自体が最大の競争優位になるような組織づくりも大事だと思っています。


※本記事はOpenWork大澤陽樹氏の転載許可を得て、一部改変を行い掲載しています。
オリジナルの記事はこちら

参考リンク
・大澤陽樹note『企業価値向上に寄与するのは業績が先?働きがいが先?1100万件超の社員クチコミサイトをAIで分析すると』
・国内最大級の社員クチコミ等を有する転職・就職プラットフォーム『OpenWork』
・優秀層に直接アプローチできる採用プラットフォーム『OpenWorkリクルーティング』